オルレアンから来た少女 三章-1 作・風間銀灰

三章 聖女 1 ● 選ばれた少女たちよ、そなたらの働きは必ず神に認められ、聖女の列へと加えられるであろう。 ● 新しい週が始まった。つまりは月曜日ということだ。今日までの課題レポートを、いったい何人の学生が「期日を延ばしてくれ」と泣きついてくるかと考えながら教室に向かった。余談だがその課題は英文翻訳の授業のもので、ヘミングウェイ…

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オルレアンから来た少女 三章-2

2 間もなく、ノートパソコンを覗きこんでいた大海原の、げげっ、と小さく呟く声がした。 「センセー、こりゃキツイですよ。三万件以上ヒットしましたよ、このキーワードで」 範囲が曖昧だから、おそらくそうなるだろうとは思っていた。私は大海原に言った。 「いちいち全部見る必要はない。トップページに来ているサイトのテーマをいくつか教えてくれ」 「ほーい。…やっぱり例の事件のが多いですね…

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オルレアンから来た少女 三章-3 作・風間銀灰

3 その掲示板をさっそく見てみると、楠の言葉どおり、ストーカーもしくはDV被害に遭った女性、またはその家族や友人たちによる書きこみがされていた。 胸の痛むような様々な体験談の他に、投稿者どうしの感情的なやりとりが目に付く他は、特に何か変わったところがあるとは思えなかった。 「オルレアンから来た少女…。男にコワイめにあった女の子は、ヒーローではなくヒロインに助けを求める、って…

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オルレアンから来た少女 三章-4 作・風間銀灰

4 二日後のことである。出勤前にコーヒーをすすりながら寝ぼけまなこでニュースを見ていた私を、一気に覚醒させるほど驚いた出来事が起こった。 季節のお花情報などとのんびりした特集をやっているニュース画面の上部に、速報のテロップが流れたのだ。 「〇〇で男性が刺殺された事件で、府警は容疑者の女を逮捕」 つまり、連続殺人の三番目の事件の容疑者が捕まった、ということだった。その容疑…

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オルレアンから来た少女 三章-5 作・風間銀灰

5 事件のおかげで、この頃すっかり昼夜を問わず関連する報道を見る習慣がついてしまった。そんな私を見て、妻が心配そうに言った。 「なんとかしたい気持ちはわかるけど…あまり無茶はしないでね。テレビの見過ぎで体を壊したら悲しいわ」 確かにそうだ。素人でできることはそうないし、私ももう決して若くも体力もない。だが…私は突き落とされるところを見てしまった。放っておくわけにはいかない。…

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オルレアンから来た少女 四章-1 作・風間銀灰

四章 身代わりの羊ではなく 1    ● 彼の女(ひと)は、清らかに死せることによってより聖なる存在となる。手をかけることをためらうなかれ。 ● 私と妻は、とりあえず急いで家を出、間もなく楠と合流した。 「どうしたんだ。いったい何があったんだ」 楠の顔を見るなり尋ねると、彼女は泣きそうな顔で答えた。 「わかんないんですぅ。香音ちゃんから着信あったと思って出…

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オルレアンから来た少女 四章-2 作・風間銀灰

2 そんなまさか。そんなはずは…。美音さんは、手の甲で涙をごしごしこすりながら、我々に部屋に上がるよう促した。 少し落ち着いた美音さんは、卓上にあったノートパソコンを開き、言った。 「お姉ちゃんのパソコンです…。これ、見てください…」 そのノートパソコンは、若い女の子の好きそうな、ラメ入りとか言うらしいピンク色の可愛らしいものだった。しかし、中に記されていた内容は、その…

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オルレアンから来た少女 四章-3 作・風間銀灰

3 しばらく時が止まったかのような沈黙が流れた。 「ど…どうしてあたしが…」 ようやく美音さんがかすれ声で呟くと、私もやっと口を開いた。 「以前会った時、君は『お姉ちゃんはピンクは決して身に着けない』と言った。実際香音さんはモノトーンの服を着ていたし、その際君の言ったことを否定しなかった。 あの時に二人ともわざわざ嘘をつく理由がない。ということは、今の方が嘘ということに…

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オルレアンから来た少女 四章-4 作・風間銀灰

4 私は思わずまた美音さんの瞳を見つめた。しかしその瞳に、狂気の影はない。 「聖女…?」 私の呟きに、彼女はこくりとうなずく。 「清らかに生きてきた人は、死んだら聖女になるの。そして、ずっと見守ってくれるの」 「馬鹿を言っちゃいけない」私は囁くような声で言った。「生きていた方が、たくさん話せる。たくさん助け合えるだろう」 すると、美音さんは突然激しく首を振った。 「違う!…

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オルレアンから来た少女四章-5 作・風間銀灰

5 香音さんは病院に運び込まれ、すぐに治療を受けた。意識は失っていたが、それは睡眠薬のせいで、命に別状はないとのことだった。 我々─私と妻と楠と、そして美音さん─は、廊下で処置が終わるのを待った。 「美音さん、君は…本当は香音さんを死なせる気はなかったんじゃないのか?本当は心のどこかで間に合うように見つけてほしかったから…我々を呼んだのではないのか?」 美音さんはうつむ…

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