2010年10月09日

オルレアンから来た少女 あとがき

長かった…。量的には中編程度ですけど、週一連載で結局半年近くかかったもんなあ。
毎回ストーリー破綻してないかびくびくしておりました。拙すぎて意味が伝わりきらないところもあるでしょうし、竜頭蛇尾の感もあるし。それでも、とりあえず予定通りの犯人と終わり方ができて作者的にはひと安心です。
最後までおつきあい本当にありがとうございました!
2010・10・09風間銀灰 拝
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オルレアンから来た少女(最終回) 作・風間銀灰

さて、あとはその後のことを少々書いて結末としよう。
田中さんは、美音さんの証言もあって逮捕はされた。ただし、物証もほとんどないから、裁判で無罪になることはありうる。だが、彼は終わりにするはずだった人生を、罪を負って生きていかねばならないのだ。不自由な体と共に…。
美音さんは未成年とはいえ、少年法は改正されたから、自首したといえどもかなりの罰は受けてしまうだろう。二件の殺人未遂、連続殺人の共犯の罪は、決して軽くない。しかし香音さんは、いつでも帰ってこられるよう待っていると言っていた。たった一人の妹だからと。
香音さんといえば、楠がこう言っていた。
「先生、香音ちゃん、お店やめちゃったんですけど、今度は知り合いの喫茶店手伝うんだそうですぅ。そこの制服、メイドさんみたいでカワイイんですよ〜」
制服のことはどうでもいいが、まあよかった。香音さんは、見た目よりもずっと強い子なのかもしれない。
そして、連続殺人の二番目の事件の実行犯も逮捕された。関西在住の女性で、三番目の事件の実行犯と交換殺人していたことが判明した。三番目の被害者の元交際相手で、連れ子した息子に暴力を振るわれ、それが原因でその子は視力を失ったという。その復讐のためにこの連続殺人に加わったのだそうだ。
「やりきれない事件だったな…。いや、どんな事件だってそうだが」
私が溜め息をつくと、妻は私を慰めるようにこう言ってくれた。
「でも、あなたのおかげで、二人の命が救われたのよ。それに、まだ被害者が増えるかもしれなかった事件を止められたんだから。偉いわ」
妻は私よりずっと年下なのだが、ときどき私は、彼女の方がずっと大人だとしみじみ痛感するのである。
書きたくもないが、鳴戸と大海原は、事件の解決よりも、香音さんがメイド喫茶を辞めた方に関心があった。
「香音ちゃんお店辞めちゃったんスか?!楠さん、彼女の新しい勤め先、教えてほしいんスけど」
「俺も俺もー。常連になるー」
この二人も、ある意味立派なストーカーのような気がする。

かつての聖少女、ジャンヌ・ダルクは、神の声を信じて、戦いを続けた。そして、短い生涯を終えた。
そして今、ネットの向こうの「神」の言葉に踊らされて、たくさんの人が人生を狂わせた。その元になったサイトに、かの聖少女に関連した名が付けられていたとは、皮肉なことだ。
オルレアンから来た少女。しかし実際は、救世主が駆けつけてくれるのではなく、自らの手を汚して「敵」を片付けなければならなかった。…それが一人の人間のエゴのために利用されていることを知る由もなく。
私は、香音さんや美音さんの他にも、会ったこともない被害者や実行犯の人々のことを考えると、未だに胸が重くなる。そして、二度とこんな事件が起きないことを願う。ネットの向こうの声に操られて、事件を起こすなど。
向こうに居るのは、決して「神」などではないのだから。悪魔ですらない。ただの人間の、悪意の塊にすぎないのだから。〈完〉

※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・場所に一切関係ありません。
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2010年10月02日

オルレアンから来た少女 五章-3 作・風間銀灰


「動機は…推測しかできませんが、おそらく香音さん、そうなのではないですか」
私が言うと、田中さんは一瞬私をにらみつけたが、すぐに目を伏せた。
「美音さんの、『お姉ちゃんは生きてたら絶対どこか行っちゃう』という言葉がヒントになりました。…あなたも、香音さんを離したくなかった。
あなたは、ただ香音さんを殺すのではなく、あなたを香音さんが殺し、それをごまかすために連続殺人を扇動し、その結果自殺した、と見せかけるよう、遠大なシナリオを作った。そうすれば、世間はあなたと香音さんの名を永久に結び付けて考える…そう思ったのでしょう?」
彼は相変わらず目を伏せていたが、その唇は強く噛み締められていた。それでも彼は、抵抗を試みていた。
「…本当に馬鹿馬鹿しい。確かに僕は彼女を追い回したけど、それ以上のことをしたという証拠が、何かあるんですか」
やはり認める気はないようだ。できれば、自ら罪を認めてほしかったが。私は呟いた。
「…美音さんが、全てを話してくれましたよ」
今度こそ田中さんの顔色が完全に蒼白になった。
「あなたに命じられた通り、あなたが作った闇サイトを管理したこと、変装してあなたを突き落としたこともね。今ごろ警察でも話しているはずです。ここへも警察が事情を聞きにやってくるでしょう」
「では、あなたは何をしに来たんです?」彼は怒鳴った。「僕を逃がすためではないはずだ。僕はこんな体なのだから、逃げられない。なのに何故わざわざ警察より先にここへ来たのです?」
私は田中さんを見つめた。そして、なるべく感情を抑えた声で言った。
「…あなたに、自分のしたことの意味を知ってほしかったからです。
美音さんは言ってました。宏一さんのことがお姉ちゃんと同じくらい好きだった、と。だから、お姉ちゃんをずっと二人のものにしておけるこの計画が、とてもいいものに思えたと。
あなたは、あなたの言うことをなんでも聞くくらい慕っていた彼女の気持ちを利用した。それで美音さんの未来はどうなったと思いますか?美音さんだけじゃない、香音さんもこれからも苦しんでいかなければならない。
その二人だけじゃない、あなたのシナリオのために殺人を犯した人々…第二、第三の事件に関わる人々の人生も、あなたは台無しにした。
そういう意味でも、私はあなたを死なせずに済んでよかったと思っている。楽に死なせなくてよかったと。あなたは生きて、自分のしたことの代償をたっぷりと払うことになるでしょう。…連続殺人の主犯、殺人教唆、その罪、決して軽くはありませんよ」
私の今したことは、余計なお世話なのかもしれない。ネメシス(復讐の女神)は、必ずやって来ただろうから。だが、美音さんのことを考えると、言わずにいられなかったのだ。
最終回に続く

※この作品はフィクションです。実在の人物・場所・団体に一切関係ありません。
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2010年09月25日

オルレアンから来た少女 五章-2


彼は─第一の被害者だったはずの─田中さんは、いきなり笑いだした。
「いったい何をおっしゃっているのです?」
また先ほどのような言葉を繰り返してきたが、彼の顔色は相変わらず白かった。
「僕は被害者ですよ。突き落とされたんですよ。あなただって、その現場を見たんでしょう」
「確かに見ました」
「ではあなたの言ってる事は意味を成さないじゃないですか。…まさか、僕がわざわざ自分を突き落とさせたとでも?そんな馬鹿な」
「私はそう思ってます」
「何のために?そもそも、何故そう思ったのですか?」
「理由は…ポケットです」
私の答えに、田中さんは目を見開いた。意外な言葉だったようだ。
「ポケット?」
「犯人の残したメッセージカードは、あなたの着衣のポケットに入っていたと聞きました。それが引っかかったんです」
田中さんは、言葉を発するのをやめて、私を凝視している。
「突き落とす前の一瞬に、カードをポケットに入れることができるとは思えない。ならば事前に入れていたことになる。
あなたに気付かれないように入れることができるのは、あなたの身近な人間か、行きつけの場所の人間ということになる。…だが、もう一つ可能性があるのです」
私は息を吸い込んで、続けた。
「あなた自身がポケットに前以て入れておいた」
「可能性があるから何なのですか」
彼は、ようやくまた口を開いた。
「そして」彼の言葉に構わず再び私は続けた。「あなた以外の人は、ポケットにあらかじめ入れておくことは無意味なのです。あなたに気付かれる危険を冒して、わざわざポケットに入れることは意味を成さない。
あなただけが、ポケットに入れておかねばならない理由があるのです。あなたは、命がけでこの連続殺人を成功させねばならなかったとしたら?失敗は許されないでしょう。
連続殺人と認識されるには、メッセージカードが必ず発見される必要があった。前以て投げ込んでおいたり、共犯者に落とさせたりしたのでは、見つからない危険や、紛失の危険がある。
他の人間が犯人ならば、万が一カードが発見されなくても、後で犯行声明文を出せばいい。それができないのは、もうこの世にいなくなってしまっているはずの者だったから…とは考えられませんか。
だからあなたは、ポケットにカードを入れておいた。事件の被害者なら必ず所持品を調べられ、確実に発見されることがわかっていたからです。
そして…事実、あなたがカードを持っていたことで、この事件は連続殺人鬼の仕業という印象を与えることに成功した」
「そんな馬鹿な」田中さんは、低い声で呟いた。「では動機は何なのです?僕がそこまでした動機は何なのですか」
続く

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2010年09月18日

オルレアンから来た少女五章-1 作・風間銀灰

五章 終章

とある病院。私は、受付で面会申し込みをした。
エレベーターに乗り、長い廊下を進み、目的の病室に着いた。そこは一人部屋で、窓からは青い空ばかりが見えていた。部屋の主は、窓側を向いてベッドに腰かけていて、その空をじっと見ていた。
扉は開いていたが、私は一応ノックをした。部屋の主は振り返って、怪訝そうな顔をしたが、何も言わなかった。
「失礼します」
私は頭を下げ、相手の許可を得ることなく室内に入った。
「綺麗な空でしょう」
部屋の主は、私の非礼をとがめることなくそう言って、また窓の方を向いた。確かに空は、悲しみを覚えるくらい済みきっていた。
「…で、どちら様なんです?」
部屋の主は、当然するであろう質問をしてきた。私は自己紹介し、続けて言った。
「あの日、駅に居た者です」
すると、相手の表情が一瞬だけ動いた。
「それはそれは。…もしかして、非常用停止ボタンを押してくれた方ですか?」
「…そうです」
「僕が意識を取り戻した後、医師が教えてくれたんです。電車を止めるのがあと一秒遅かったら、命はなかったって。お礼申し上げなければいけませんね」
「いえ、むしろ私を恨むかもしれません」
私が呟くと、相手は眉を上げた。
「何故です?僕が一生車椅子になるからかもしれないからですか?」
「いいえ、それだけではありません」
一瞬、沈黙が流れた。一呼吸おいて、私は続けた。
「小池美音さんが、自首しました」
「…それが僕に何の関係が?」
そのぶっきらぼうな返答は、少しかすれていた。
「それともう一つ、小池香音さんは助かりましたよ」
私はじっと相手の目を見据えて言った。
「彼女は聖女にならなくて済んだわけです」
私の言葉に、相手の顔色がすっと白くなった。それでも、震え声でこう答えてきた。
「いったい何のことをおっしゃっているのかわかりません」
「よくわかっているはずですよ。…あなたが全て計画したのでしょう?…田中宏一さん」
続く

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2010年09月11日

オルレアンから来た少女四章-5 作・風間銀灰


香音さんは病院に運び込まれ、すぐに治療を受けた。意識は失っていたが、それは睡眠薬のせいで、命に別状はないとのことだった。
我々─私と妻と楠と、そして美音さん─は、廊下で処置が終わるのを待った。
「美音さん、君は…本当は香音さんを死なせる気はなかったんじゃないのか?本当は心のどこかで間に合うように見つけてほしかったから…我々を呼んだのではないのか?」
美音さんはうつむいて黙っていた。
「元々、こんな連続殺人計画がうまくいかないことはわかっていただろう。実行犯の一人が捕まったら、香音さんを黒幕に仕立て上げ、自殺に見せかけて死なせる…そういう段取りだったのだろう。
だが、君はできなかった。君は、どこかでちゃんとわかっていたんだ。香音さんを殺しても何もならないことを。だからまだ早すぎる段階で我々を呼んだ」
美音さんの目から涙が溢れた。
そこへ、看護師が、香音さんが意識を回復したことを伝えに来た。
我々が病室に入ると、香音さんはまだ蒼白い顔を我々に、いや、美音さんに向けた。
「お姉ちゃん…ごめんね…」
そう言って美音さんは、香音さんにすがりついて泣き出した。香音さんは、黙って首を振りながら、美音さんの頭をなで続けた。
美音さんは泣き止むと、振り向いて言った。
「あたし…これから警察に行きます。行って、自分のやったこと、全部話します」
私はうなずいた。
「私が付き添っていこう。…君たちは香音さんに付いててくれ」
妻と楠もうなずいた。

これは後に妻から聞いた話である。香音さんが、天井を見つめながら、ぽつりと言ったそうだ。
「美音が私を死なせようとしたのは…悪気があったわけじゃない…。私のせいなんです」
「え?」
「両親が死んだとき、私は美音に繰り返し言ったんです。パパとママは居なくなったわけじゃない、死んだことでずっとずっと見守ってくれるようになったの、って。ずっと側に居てくれてるの、って。…だから、あの子…私を…」
そのとき妻は、繰り返し言うしかできなかったそうだ。あなたのせいじゃない、と。

私は美音さんを最寄りの警察署に送り、病院に戻った。建物に入るときに、ぺこりと頭を下げた美音さんの姿は、生涯忘れられないだろう。
戻ると、楠が廊下まで出迎えて言った。
「香音ちゃんこれからたいへんですけどぉ…でもこれでよーやく終わりましたね」
私は唇を結び、首を振って答えた。その言葉を聞いて、楠は驚きで口をぽっかり開けた。
「…いいや、まだ終わってはいない」
まだ居るのだ。本当に責めを負うべき人物が。
続く

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2010年09月04日

オルレアンから来た少女 四章-4 作・風間銀灰


私は思わずまた美音さんの瞳を見つめた。しかしその瞳に、狂気の影はない。
「聖女…?」
私の呟きに、彼女はこくりとうなずく。
「清らかに生きてきた人は、死んだら聖女になるの。そして、ずっと見守ってくれるの」
「馬鹿を言っちゃいけない」私は囁くような声で言った。「生きていた方が、たくさん話せる。たくさん助け合えるだろう」
すると、美音さんは突然激しく首を振った。
「違う!お姉ちゃんは、生きてたら絶対どこかへ行っちゃう!あたしたち大人になったら、離ればなれに…そんなのイヤ!」
泣き叫ぶようだった彼女の声が、再び穏やかに、どこかうっとりした口調に戻った。
「だから」夢見るような声。「だから、あたしを置いていってしまう前に、聖女になってもらうことにしたの」
死んだら聖女に…。その意味に思い当たって、私はぞっとした。
「美音さん、香音さんはどこだっ!」
思わず彼女の肩をつかんで揺さぶったが、かみ合わない答えが返ってきた。
「お姉ちゃんは死体になってもきっと綺麗なの」
埒があかない。だが、今の言葉に私はわずかに光明を見い出した。
「…君がどんな方法で香音さんを死なせようとしているか知らないが」声を荒げないよう、うわずらないよう必死で呟く。「無理に命を断たれた人間は、どのような方法を取ろうと、美しい死体になるなんて決してあり得ない」
私の言葉に、美音さんはかすかに動揺を見せた。
「苦痛のある死なら、表情に恐ろしい苦しみを残すし、たとえ苦痛のない死でも、弛緩した筋肉が、容貌を著しく変える。…決して君の望むような、美しい死に顔にはならない」
「そんな…嘘…嘘でしょ…」
声を震わせた美音さんに、もう一度尋ねる。
「もう一度聞く。香音さんはどこに居るんだ」
返事はない。
「…君はおそらく『オルレアンの少女』メンバーに正体を明かしてないだろう。ということは、すぐ手伝える共犯はいないということだ。そして、女性一人の力では意識を失った人間をそうそう運ぶことはできない。と、いうことは」
私は一拍置いて言った。
「香音さんは、まだこの家のどこかに居る可能性が高いということだ」
私は立ち上がって、部屋の中を探し始めた。妻と楠も、慌てて手伝う。クローゼット、納戸と見ていって、他の部屋に移ろうと廊下に出たとき、かすかな水音が耳に入った。
「浴室だ!」
私の声に、止めようと飛びかかる美音さんを取り押さえ、その間に妻と楠が浴室を見つけて駆け込んだ。
「香音ちゃん!」
楠の叫び声が聞こえ、私もそこへ駆け込むと、妻が香音さんを助け起こそうとしているところだった。急いで手を貸して様子を見ると、香音さんは顔色は蒼白で意識はなかったが、まだ生きていた。
ざぶざぶと溢れ続ける浴槽の水は、赤く染まっていた。縁には剃刀と睡眠薬の瓶が置いてあり、香音さんを自殺に見せかけて死なせようとしたことは明白だった。
ぱっくりと開いた彼女の手首の傷を懸命に押さえ、我々は救急車を呼んだ。
続く

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2010年08月28日

オルレアンから来た少女 四章-3 作・風間銀灰


しばらく時が止まったかのような沈黙が流れた。
「ど…どうしてあたしが…」
ようやく美音さんがかすれ声で呟くと、私もやっと口を開いた。
「以前会った時、君は『お姉ちゃんはピンクは決して身に着けない』と言った。実際香音さんはモノトーンの服を着ていたし、その際君の言ったことを否定しなかった。
あの時に二人ともわざわざ嘘をつく理由がない。ということは、今の方が嘘ということになる。…このピンクのパソコンが香音さんの物である、ということがね…」
「そんな…確かにあたし、そういうこと言ったかもしれないけど、服装だけでパソコンはたまたま違ったんですっ。…パソコンに関しては色にこだわらなかったから…」
「それなら」私は呟いた。自分の考えを喋るのが辛かった。「君のパソコンを起動して見せてもらおうか」
また沈黙。
「どうして見せなくちゃなんないんですかっ」
しばらくして美音さんが挑戦的に返答し、私もややきつい口調で返した。
「見せられない理由でも?」
すると美音さんは口を固く結んで、黒いノートパソコンを起動した。
表れた画面は…データを全て消された、何もない状態。
「データを復旧すれば、おそらく香音さんのパソコンであることが証明されるはずだ」
私は言って、美音さんを振り返った。
「君のパソコンらしく見えるよういろいろ細工する前に、我々を呼んだのは失敗だったね」
美音さんは唇を噛み締めてうつむいた。
「だが、パソコンを入れ替えるということ自体は、単純だが見事な発想だ。データはどんなに消したとしても復旧されて露見する恐れがある。でも同一家庭内で入れ替えてしまえば、それが家族のうち誰の物か明確には証明できない…」
そう、あの時美音さんがハンカチを落とさなければ、おそらく私も永久に気付くことはなかっただろう。
「そうだ、香音さんは?」
「香音ちゃんはどこですか?」
私と楠は同時に叫んだ。妹に罪を着せられようとしていたということは、もしかして…。美音さんはうつむいたまま答えない。
「もう一つ言っておくが、私は第一の犯行を目撃している。少なくともそれは香音さんではないと、いつでも証言できるぞ」
香音さんは小柄だが、スプリング・コートの女は、小柄というには背が高かった。あれは断じて香音さんではなかった。私は続けて言った。
「何故だ?何故香音さんに罪を着せるようなことを?たった一人の家族なのだろう?」
すると美音さんは、罪を犯したとは思えないほど澄んだ瞳で私を見つめ、言った。
「大切なお姉ちゃんだから…聖女になってほしいから」
続く

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2010年08月21日

オルレアンから来た少女 四章-2 作・風間銀灰


そんなまさか。そんなはずは…。美音さんは、手の甲で涙をごしごしこすりながら、我々に部屋に上がるよう促した。
少し落ち着いた美音さんは、卓上にあったノートパソコンを開き、言った。
「お姉ちゃんのパソコンです…。これ、見てください…」
そのノートパソコンは、若い女の子の好きそうな、ラメ入りとか言うらしいピンク色の可愛らしいものだった。しかし、中に記されていた内容は、その可愛さからはるかにかけ離れたものだった。
『オルレアンから来た少女』のサイトで知り合った女性たちとのやりとり。もう我慢できない、あんな奴が生きてるなんて耐えられない、いっそ殺してしまいたい。そんな数々の声に答えるかのように、それは一つの文章から始まっていた。
『我々は神からお告げを賜った。この世界から消し去りなさい。人間の皮を被った汚れた獣たちを。…と。』
一見幼稚な狂信者の戯言のような文がところどころに挟んではあったが、計画そのものは冷酷かつ理知的なものだった。そう、このパソコンに記されていたのは、大がかりな連続殺人の計画だったのである。
まず『神の使い』が第一の事件を起こす。その後はこの『選ばれし者たち』の中で、順次交換殺人をしていけばよい。メッセージカードは、殺害対象の罪悪に合わせて『神の使い』が作り、プリントアウトできるようにしておく。
別のページを開くと、そのカードのもとがあった。おなじみの三つの文面の他にも、これから実行される予定だったのか、十種類ほどの文面があった。
「そんな…じゃあ香音ちゃんが、その『神の使い』ってことですかぁ?でも、香音ちゃんは最初の事件の日、美音ちゃんと一緒にお家に居たんですよね?」
楠の震え声の呟きに、美音さんはぎゅっと目をつぶって叫んだ。
「ごめんなさいっ」そして、小さな声で、「あの日…なんでかとっても眠くなって…学校から帰ってずっと寝てたんです…。目が覚めた時にはお姉ちゃん普通に家に居たから、全然関係ないと思ってた…」
「つまり君は」私は美音さんを見つめて言った。「香音さんが、君を眠らせてその間に第一の犯行をしたのではないかと思っている訳だね」
美音さんはまた目に涙を浮かべた。
「あたしだって信じたくないです…でも、こんなのを見つけてしまった以上…」
私は溜め息をついた。やはりエルキュール・ポアロは正しい。何気無い日常のお喋りの中に、真実が潜んでいる。
「美音さん」
私は低い、感情を抑えた声で呟いた。その声を聞いた妻と楠は、驚きではっと顔を上げた。普段聞いたこともないような言い方だからだろう。
「なんですか」
涙を拭いて答える美音さんに、私は言った。
「…君のパソコンを見せてくれ」
一瞬、部屋が静まりかえった。
「…え?」
とまどう美音さんに、私は再び繰り返した。
「君のパソコンを見せてくれ」
「…は、はいっ」
美音さんは立ち上がって部屋を出ていくと、自室からノートパソコンを持ってきた。それは、女の子のセンスとしては珍しい、真っ黒なデザインだった。
やはりそうか。私は、美音さんに向かって次の言葉を放った。間違いであってほしいと願いながら。
「…香音さんじゃない。君だね、犯人は」
続く

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2010年08月14日

オルレアンから来た少女 四章-1 作・風間銀灰

四章 身代わりの羊ではなく

   ●
彼の女(ひと)は、清らかに死せることによってより聖なる存在となる。手をかけることをためらうなかれ。

私と妻は、とりあえず急いで家を出、間もなく楠と合流した。
「どうしたんだ。いったい何があったんだ」
楠の顔を見るなり尋ねると、彼女は泣きそうな顔で答えた。
「わかんないんですぅ。香音ちゃんから着信あったと思って出てみたら、美音ちゃんの声で、すぐ来てって」
先ほどの話の繰り返しになりそうだったので私は慌ててさえぎった。
「それより、二人のご両親とかはどうしているんだ。一緒に住んではいないのか」
「それが…」
楠は泣きそう顔から困惑顔に変わって答えた。
「香音ちゃんたちのおとーさんおかーさん、二人とも数年前に亡くなっているんですぅ。で、香音ちゃんと美音ちゃんは親戚の家で暮らしてたけど、最近になって二人で暮らし始めて」
ということは、美音さんは頼れる人がほとんどいないのか。と、ここで、妻が遠慮がちに口を挟んだ。
「…何があったかわからないけれど、警察にも報せた方がいいのかしら?」
すると、楠が首を横に振った。
「そう言ったんですぅ。そしたら、美音ちゃん、そんなコトしないでとにかく来てって…。だからとにかく、香音ちゃん家へ行ってみましょう」
我々は頷き、急ぎ足で歩き出した。
こんな時は、電車もタクシーもものすごくゆっくり動いているように思える。じりじりした思いで移動し、その間楠にもう一度電話をかけさせたが、美音さんは出なかった。
二人の住むアパートにようやく着くと、インターホンが鳴るのとほぼ同時に美音さんが飛び出してきた。彼女は、我々を見るとわっと泣き出した。
「美音ちゃん、いったい何があったんですかぁ、香音ちゃんは?」
楠の問いに美音さんは首を横に振り、手をぐいと前に突き出して、持っている物を見せた。

美音さんの手に握られていたのは、おとなしめな桜色のスプリングコートと、長い毛の鬘だった。

美音さんは泣きじゃくりながら、つっかえつっかえ喋った。
「お姉ちゃんの部屋に…隠してあったの…見つけ…て…。これって…これって…」
続く

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