2007年08月13日

冬桜 ─ あとがきモドキ─

読者のみなさまご機嫌如何お過ごしでしょうか。最後まで辛抱強く読んでくださって誠にありがとうございました。一人でもいい、読んでくれる方が居てくれれば、書いた甲斐があるというもんです。
あらすじで言えば、死にかけの若者がうだうだしてて、ひょんなことで元気になるという、「だからどしたの」な作品です。正直、自分では、小説として成立してるかもよくわかりません。
この話を書いたきっかけは、季節外れの桜を見て衝撃を受けたことでした。そして、自身がお笑いキャラなため美形好みな私の趣味で、肺病美形青年を主人公にしてみました。…しかし、いくら好みに沿っていようが、自分の創作キャラにはときめかないんですよね。書いてる時は、私は翔青年目線気分なわけですから。自分で自分にトキメク筈はないというわけです。
そして、この作品、一番書きたかったのは、最後の一行でした。意味がわかんないとか唐突だと思われた方が大部分かと思われますが、まあいいや〜。
欠点は多々あり、某コンクールで掠りもしなかった作品ですが(そんなん連載したんかい)、十年近くも温め、愛着があります。口下手な人間が、拙い言葉を繋ぎ合わせ、何かを懸命に伝えているとご理解くださいませ☆
改めてありがとうございました!
posted by 蔓庵(かずらあん) at 23:38| ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 冬桜【小説】 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

冬桜 最終回 作・風間銀灰

そして、男は今度は娘と二人で桜を見上げていた。
「ほんとに、ほんとに桜だね」
娘が嬉しそうに呟いた。花は、昼間見てもやはり小さく、頼りなげな感じだったが、それでもまだ咲いていた。
「翔さまのいいこと。この花が咲いててくれて、ほんとによかった…」
そう言って娘は、男の手にそっと自分の手を滑り込ませた。
「だって咲いててくれなかったら、翔さまどこかへ行っちゃったかもしれないもの」
男もまた、娘の手をそっと握り締め、囁いた。
「心配かけたな。…もうどこにも行かない」
二人は顔を見合せて、微笑んだ。
冬はもう、死と共には歩いていない。冬の先には、春がある。桜の咲く、春がいる。自分にもちゃんとやってくるのだ。春が、未来が。
気分が変わるだけですぐに治る病でもないが、男は今では希望の方を信じていた。故郷から寄越した付添人が着いたら、さぞかしとまどうだろうな、と彼は可笑しくなった。
そうそう、春になったら、故郷に顔を見せに行こう。心配をかけた詫びに。
「翔さま、今日もうちにご飯食べに来てね」
娘が桜の方に顔を向けながら言った。
「このところずっと世話になりっ放しだが、いいのか」
すると、娘は急にまっすぐに男を見つめて言った。
「いいの。翔さまは私の未来のお婿さんなんだもん」
そして、弾けるように笑った。男は、一瞬赤くなってから、微笑み、そして一緒に笑った。
彼は急に空腹を覚えた。
─了─
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2007年08月12日

冬桜 終章一〜三 作・風間銀灰

ようやく家に帰り着いた頃には、家の中は冷えきっていた。男は、身震いを一つして呟いた。
「おう、寒いな」
だがそれは、決して不愉快な感じではなかった。ぞくぞくするような寒さではなく、冷たく澄んだような寒さを感じた。自分が温かいからこそ、感じる寒さ。寒い寒いと呟く男の顔は楽しそうで、その夜は珍しく枕に頭をつけるやいなや眠ってしまった。

翌日、無茶が祟って、案の定発熱した。
「翔さまったら、昨日夜になってから散歩するなんて。無茶しすぎだよっ」
娘の叱責に、男は悪戯を見つかった子供のような照れ笑いを浮かべた。
「ホントに何考えてんだか…」
彼女はふくれてみせたが、それでも、昨日帰ったときよりもずっと、男の具合が良さそうなことに気が付いていた。無論昨日より熱は高いし、咳もひどい。だが瞳がいきいきとして、楽しそうに微笑んでいる。
「翔さま、昨夜何かいいことがあったの?」
「ああ」娘の問いに、男は微笑んだまま頷いた。「とってもいいことがあった。熱が下がったら、教えるからな」

男の熱はすぐに下がった。今までにない回復力に、医師は驚いた。男は、娘に聞こえぬよう囁いた。
「桜が咲くのを見られたからです」
それを聞いて、医師の目も楽しげに躍った。
「ほう、なるほどな」
仲間外れになった娘が、不安そうに尋ねてきた。
「何?二人で内緒話?」
すると男は、笑って立ち上がった。
「俺にあったいいことの話だ。今教えるから、おいで」
〜最終回に続く〜
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2007年08月11日

冬桜 十三の六 作・風間銀灰

たったそれだけのことに気が付くまでに、どれだけ廻り道をしたのだろう。そして、季節外れの桜を見た、それだけで突然心が晴れ晴れした。そんな自分が、とても可笑しかった。笑いがこみあげてきた。
男は笑い出した。咳きこみながら笑った。涙が出るほど笑った。木にもたれかかって笑った。そして、笑いながら泣き出した。笑いとしゃくり上げる音が混ざり合い、涙がぼたぼたと桜の根に落ちた。
ようやく笑い泣きが落ち着くと、男はそのままぐったりと体重を木に預けた。疲れきっていたが、その疲労感が心地よかった。こんなに笑ったのも、激しく泣いたのも、本当に久々だった。
荒い呼吸が収まると、男は呟いてみた。
「寿命は、仏さまが決めるもんだ…」
良作老人のこの言葉を呟いてみて、彼はまた笑った。笑いながら、桜を見上げた。桜も、笑っているかのように揺れていた。笑って笑って、笑い続けた。─今はまだ、俺も生きている。
〜続く〜
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2007年08月10日

冬桜 十三の四(続き)・五 作・風間銀灰

神か仏か、運命をもたらす不吉なものとして男を捕らえていた何かは、有り得ないと思っていた冬の桜を彼にもたらした。駒を進める何かにとって、重大なことも些細なことも、等しく同じなのだ。寿命を定めることも、気紛れに花を咲かすことも。それを無情と捉えるか、ただ無常なのだと捉えるのも、全て己自身なのだ。
花は咲いている。明日には散る運命かもしれぬのに。関係なく、咲いている。
たとえ寿命というものが定められているとしても、その日までどう生きるかは、己自身で決められるのだ。そして、そもそも寿命は、最期の最後まで生きてみて、初めてわかる時間制限だ。─とにかく今、俺は生きている。この花のように。この花も、明日に散るのか、明後日に散るのかわからないが、とにかく今は咲いている。俺だって、明日のことはわからぬが、とにかく今は生きていて、こうして桜を見ている。

生きている。俺もこの花も。たとえ見る者が誰もいなくとも、そんなこともまた関係なく、この花は咲いているだろう。こんな寒いときに咲かずともよいのに、こうして咲いて、桜を見たいと願っていた俺の希みを叶えてくれた。否、この花は、人の役に立とうと思って咲いたのではないのだ。役に立とうと立つまいと、そんなことには構わずに、与えられた命を限りまで生きている…。
俺もこの花と同じで良いのだ。今初めてわかった。身内や友たちが、俺に望んでいること。役に立とうと立つまいと、ただ居ればよいのだ。役に立つこと、形になるものを残すのが、必要の全てではない。ただ咲いているだけのように、ただ微笑んでそこに居るだけでいい。そう思ってくれている人々が、俺の周りにはたくさん居てくれているのだ。
そして、誰かのためでなくてもいい。ただ生きていれば、精一杯生きていれば、それだけでもいいのだ。
〜続く〜
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2007年08月09日

冬桜 十三の四 作・風間銀灰

よろめく足取りで、男は一本の木の側を通り過ぎた。通り過ぎてから、彼はふと足を止めた。呼吸が鎮まってから、おそるおそる振り返った。目を見開いた。引き返して、その木を見上げた。とても信じられなかった。だが、それは…その枝先に震えているのは─。
「…桜だ!」
数は少ないが、それはまさしく桜の花だった。
「俺は狂ったのか?それとも狐に化かされたのか…?」
だが、狐狸だとしたら、優しい怪しに違いない。こんな寒空に、花を見せてくれるとは。
否、幻でも見間違いでもなかった。月明かりで、白地にほんのわずかに紅を刷いたような色まで見えた。春のと違ってどこか寂しげで、貧弱だったが、桜には違いなかった。
男はしばらく立ちつくしていた。花は、寒風にさらされて、震えている。それでも懸命に枝にしがみついていた。一見弱々しいのに、春の桜のように儚く散ることなど、考えてもいないようだった。
「そういえば、仙十郎が、桜のことを何か言っていたっけな…」
珍しい桜がある、そのうち見に行くとよい、と友人が言っていたのを、今思い出した。
桜は春のものと思い込んでいたが、冷静に考えてみれば、桜には種類が豊富にあるのだ。そういえば、寒のうちに咲くものもあるという。そのことを今まで全く思い出さなかったのが、不思議なほどだった。当然、秋咲きのものもあるだろう。狂い咲きのものもあるだろう。
奇跡でも何でもない。しかし、そうとわかっても、彼は花の下から動かなかった。
〜続く〜
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2007年08月08日

冬桜 十三の二・三 作・風間銀灰

外の方がもっと寒いとわかっていた。だが、もうこれ以上じっとしていられなかった。風が吹き付け、激しく咳が出た。それでも男は構わず歩き続けた。歩いては息切れし、冷たい空気を吸い込んでは、また激しく咳をし、そしてまたがむしゃらに歩いた。
逃げたかった。死から、己自身から、そして何より、人間の思惑を遥かに越えて、無情に駒を進める何かから、逃げたかった。冬はもう追いついている。死と手をとりあって、追ってくる。
─もう一度桜が見たい─
「もう一度、桜が見たい…」
男は想いを口にした。

初冬の日はとっくに逃げ去っていた。白く冷たい月が、男を照らした。それでも彼は歩き続けた。どこへともなく歩き続けた。
歩きながら、とりとめない思いがぐるぐると回る。たとえこのまま倒れても、誰かのもとへ行くわけにはいかない。俺は今、死に追いつかれそうになっている。死が俺と共に走っている。誰かのところへ行ったら、その大切な誰かにも死が追いついてしまう…。
歩け、歩け、歩け。
〜続く〜
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2007年08月07日

冬桜 十三の一 作・風間銀灰

寒かった。凍えるのではなく、白い陶器のように冷たくなっていくような。凍えるのは、温かい血の通った、生きている者だけだ。
はっと我に返ると、火鉢の炭がほとんど燃え尽きていて、消えかかっていた。寒さの原因はこれか、と、男は安堵の溜息をもらした。何のことはない、炭を足せば、またすぐに暖かくなる。暖かく─。
消えかけた炭火の白い破片が、ぼろりと崩れた。粉々になったそれは、力無く散らばった。─幼い頃寺で見た、一握りの灰のように─。思い出せなかったこと、否、思い出すまいとしていたこと。それは父の灰ではなかったか?父の骨ではなかったか?
「ああ、うわあああッ」
男は叫んだ。その声は弱々しく掠れ、咳に紛れた。あの大きくて強かった父は、死んで焼かれて、灰になってしまった。壺に収める際に、上から蓋で押された骨は、ぐしゃり、と音を立てて潰れた。はみだした一握りの灰が、冷たい風にさらわれて、あっという間に吹き散らされてしまった。それでも壺の周りに残った砂粒のような骨の欠片は、悲しいほど白く、あちこちが尖っていて、石の上で冷たく光っていた…。
男は表に飛び出した。
〜続く〜
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2007年08月06日

冬桜 十二の五 作・風間銀灰

一人になって、男はまた観音像を見つめながら思った。このまま死んで、皆を悲しませるだけだとすると、俺はいったい何のために生まれてきたのだ。どうせ死ぬと決まっているのなら、何故生まれてくるのだ。神か仏か「何か」があらかじめ全ての運命や寿命を決めているとしたら、俺は何のために生まれてきたというのだ。何のために…。
この観音像を作った良作老人は、子を残し、職人としての技を残し、この像を残した。長い生涯を、充実して過ごしたのだ。だからこそ、あのような言葉─寿命は仏さまが決める─と言えたのではないか。
俺はそう素直に思われない。八十の老人よりも、明日への希みが儚いから。
何故だ、何故だ、何故だ。
そして男は、父のことを思った。大きくて、強くて、頼もしかった父。そんな父が、病に負けて、逝ってしまった。今の自分と同じ病で。父の事を思い出すと、何かの不安な影が心を過った。幼い頃の思い出せない記憶の影が。
何だろう。それから母のこと、兄のこと、嫂のこと、まだ見ぬ甥のことを考えた。今ではもはや、身内が自分に無関心でないことが信じられた。それだけに、嘆き悲しむ様子が厭でも想像され、その想像が彼の心を締め付けた。母に、母に手紙を書き直さなくては。…だが、何と書けばいいのだ。
何と書けばいい。
仙十郎のこと、その他の友人のこと、教え子たちのことも思った。一緒に居て楽しかった日々。地位も、名誉も、食うものに事欠いていても、何も不足を感じなかった。病に倒れ、己が以前の自分でなくなっても、彼らは皆変わらず接し、回復を信じて待ってくれている。
何故俺を必要としてくれているのだ。
そして…医師と娘。あの二人は、知り合って数年しか経たぬのに、それこそ身内のように接してくれていた。ぶっきらぼうや口調で、温かい言葉を言う県殿。…こんな自分を、心から慕ってくれているらしい、みちさよ殿…。
娘の、「約束だよ」と囁いたときの、黒い瞳が目にちらついた。約束の次の朝が、とても遠い。そして、桜の季節まで、長い夜が無限に続くように思われる…。
何度長い夜を繰り返してもやって来ぬ、桜の季節。
〜続く〜
posted by 蔓庵(かずらあん) at 22:12| ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 冬桜【小説】 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年08月05日

冬桜 十二の三(続き)・四 作・風間銀灰

頬に降り注ぐ娘の涙がとても温かかった。男は、布団から手を伸ばした。白く細い指で、その止まらない涙を優しく拭った。濡れた彼女の顔も、とても温かかった。
「翔さま…」
娘は驚いて一瞬泣き止んだ。それから、微笑んで、男の手の上に自分の手を重ねた。
「みちさよ殿、俺は死にたくない…」
己の頬の上の白い指に、自分の指をからめて、娘は頷いた。
「死ぬのがとても怖いのだ」
からめた指に力を込めて、娘はまた頷いた。
「翔さまは死なないよ。…諦めなければ、きっと大丈夫だよ。私が、きっと死なせないから」
娘は、男にも自分にも言い聞かせているかのようだった。
「…本当に、こんな弱い男でいいのか?」
男の問いに、娘はまだ目に涙を溜めたまま、幽かに笑って答えた。
「…だって翔さま、私の手を握っちゃったじゃない。責任とってお嫁さんにしてもらわなきゃ。…あ、手握っちゃったの、私の方か」
そして娘は、握っている指にさらに力を込め、空いてる方の手で男の髪をなでた。
「格好いい翔さまだけを好きなんじゃないよ。死ぬの怖い、って正直に言える翔さまも、大好き」

医師が来た頃には、娘は泣き止み、男も落ち着きを取り戻していた。
「ほう、少しだが、熱が下がったようだな」
医師が嬉しそうに呟いた。
「また明日ね、翔さま、約束だよ」
娘は囁き、祖父と共に帰っていった。
〜続く〜
posted by 蔓庵(かずらあん) at 22:11| ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 冬桜【小説】 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする