冬桜 ─ あとがきモドキ─

読者のみなさまご機嫌如何お過ごしでしょうか。最後まで辛抱強く読んでくださって誠にありがとうございました。一人でもいい、読んでくれる方が居てくれれば、書いた甲斐があるというもんです。 あらすじで言えば、死にかけの若者がうだうだしてて、ひょんなことで元気になるという、「だからどしたの」な作品です。正直、自分では、小説として成立してるかもよくわかりません。 この話を書いたきっかけは、季節外れの桜を…

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冬桜 最終回 作・風間銀灰

そして、男は今度は娘と二人で桜を見上げていた。 「ほんとに、ほんとに桜だね」 娘が嬉しそうに呟いた。花は、昼間見てもやはり小さく、頼りなげな感じだったが、それでもまだ咲いていた。 「翔さまのいいこと。この花が咲いててくれて、ほんとによかった…」 そう言って娘は、男の手にそっと自分の手を滑り込ませた。 「だって咲いててくれなかったら、翔さまどこかへ行っちゃったかもしれないもの」 男…

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冬桜 終章一~三 作・風間銀灰

ようやく家に帰り着いた頃には、家の中は冷えきっていた。男は、身震いを一つして呟いた。 「おう、寒いな」 だがそれは、決して不愉快な感じではなかった。ぞくぞくするような寒さではなく、冷たく澄んだような寒さを感じた。自分が温かいからこそ、感じる寒さ。寒い寒いと呟く男の顔は楽しそうで、その夜は珍しく枕に頭をつけるやいなや眠ってしまった。 翌日、無茶が祟って、案の定発熱した。 「翔さまった…

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冬桜 十三の六 作・風間銀灰

たったそれだけのことに気が付くまでに、どれだけ廻り道をしたのだろう。そして、季節外れの桜を見た、それだけで突然心が晴れ晴れした。そんな自分が、とても可笑しかった。笑いがこみあげてきた。 男は笑い出した。咳きこみながら笑った。涙が出るほど笑った。木にもたれかかって笑った。そして、笑いながら泣き出した。笑いとしゃくり上げる音が混ざり合い、涙がぼたぼたと桜の根に落ちた。 ようやく笑い泣きが…

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冬桜 十三の四(続き)・五 作・風間銀灰

神か仏か、運命をもたらす不吉なものとして男を捕らえていた何かは、有り得ないと思っていた冬の桜を彼にもたらした。駒を進める何かにとって、重大なことも些細なことも、等しく同じなのだ。寿命を定めることも、気紛れに花を咲かすことも。それを無情と捉えるか、ただ無常なのだと捉えるのも、全て己自身なのだ。 花は咲いている。明日には散る運命かもしれぬのに。関係なく、咲いている。 たとえ寿命というもの…

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冬桜 十三の四 作・風間銀灰

よろめく足取りで、男は一本の木の側を通り過ぎた。通り過ぎてから、彼はふと足を止めた。呼吸が鎮まってから、おそるおそる振り返った。目を見開いた。引き返して、その木を見上げた。とても信じられなかった。だが、それは…その枝先に震えているのは─。 「…桜だ!」 数は少ないが、それはまさしく桜の花だった。 「俺は狂ったのか?それとも狐に化かされたのか…?」 だが、狐狸だとしたら、優しい怪しに違…

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冬桜 十三の二・三 作・風間銀灰

外の方がもっと寒いとわかっていた。だが、もうこれ以上じっとしていられなかった。風が吹き付け、激しく咳が出た。それでも男は構わず歩き続けた。歩いては息切れし、冷たい空気を吸い込んでは、また激しく咳をし、そしてまたがむしゃらに歩いた。 逃げたかった。死から、己自身から、そして何より、人間の思惑を遥かに越えて、無情に駒を進める何かから、逃げたかった。冬はもう追いついている。死と手をとりあって、…

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冬桜 十三の一 作・風間銀灰

寒かった。凍えるのではなく、白い陶器のように冷たくなっていくような。凍えるのは、温かい血の通った、生きている者だけだ。 はっと我に返ると、火鉢の炭がほとんど燃え尽きていて、消えかかっていた。寒さの原因はこれか、と、男は安堵の溜息をもらした。何のことはない、炭を足せば、またすぐに暖かくなる。暖かく─。 消えかけた炭火の白い破片が、ぼろりと崩れた。粉々になったそれは、力無く散らばった。─…

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冬桜 十二の五 作・風間銀灰

一人になって、男はまた観音像を見つめながら思った。このまま死んで、皆を悲しませるだけだとすると、俺はいったい何のために生まれてきたのだ。どうせ死ぬと決まっているのなら、何故生まれてくるのだ。神か仏か「何か」があらかじめ全ての運命や寿命を決めているとしたら、俺は何のために生まれてきたというのだ。何のために…。 この観音像を作った良作老人は、子を残し、職人としての技を残し、この像を残した。長い生…

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冬桜 十二の三(続き)・四 作・風間銀灰

頬に降り注ぐ娘の涙がとても温かかった。男は、布団から手を伸ばした。白く細い指で、その止まらない涙を優しく拭った。濡れた彼女の顔も、とても温かかった。 「翔さま…」 娘は驚いて一瞬泣き止んだ。それから、微笑んで、男の手の上に自分の手を重ねた。 「みちさよ殿、俺は死にたくない…」 己の頬の上の白い指に、自分の指をからめて、娘は頷いた。 「死ぬのがとても怖いのだ」 からめた指に力を込め…

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