汝、星を盗むなかれ(第一回)作・風間銀灰

街はもうさっさとクリスマスムードらしいが、私の研究室ではあまり関係ない。それでも、授業内容はクリスマスが舞台のミステリについて扱うか、と私はあくびをしながら考えた。 もうおなじみの方もいらっしゃると思うが、私は某大学で、英米文学専門の名ばかりの助教授をしている。シャレのつもりで開講した“クラシックミステリ史”の授業でロクな目に合ってない(他の授業でもロクな目には合っていないが)、不幸な…

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汝、星を盗むなかれ(第二回)作・風間銀灰

入ってきたのは、いつものパターンである学生たちより、ある意味もっと質の悪い相手だった。学長が入ってきたのである。 何故学長がわざわざ?と思われる読者もいるかもしれないが、彼は私の学生時代からの友人で(よく一緒に授業をさぼってはパチンコに行ったものだ)、どういう手を使ったのか、理事長の娘と結婚して、学長におさまったというちゃっかりした男だ。 その彼が、暗い顔をして入ってきたので、「飲みにい…

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汝、星を盗むことなかれ(第三回)作・風間銀灰

「いったい何の話だ?まあ落ち着け」 私はとりあえず、学長に椅子と番茶とポテトチップスをすすめた。いきなり説明もなく結論を言うのが、この男の昔からの悪いクセだ。 「実は」彼は、口いっぱいにポテチを頬張りながら話し始めた。 「大講堂の、例のクリスマスツリーの話なんだが」 例のクリスマスツリーとは、留学生として我が校に通っている、小国だがやたらに金持ちな、某国の閣僚の息子が寄付したもの…

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汝、星を盗むなかれ(第四回)作・風間銀灰

「何だと!」 私は驚いた。私の冗談で言うことは、いつもシャレにならないらしい。 「だいたい、あんなところからどうやって盗めるというんだ」 ここでツリーの位置について説明しておくと、よりによって講堂の中央通路のど真ん中にでん、と立っているのだ。邪魔である。しかもやたらにでかいので、飾り付けは梯子では足りず、わざわざ足場を組んでやったのである。金持ちの考えることは、いまいちわからない。…

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汝、星を盗むなかれ(第五回)作・風間銀灰

学長は説明を続けた。 「星を設置したのは、例の留学生自身なんだ。で、彼が、警察を呼んだらまず自分が疑われるであろう、こんな不名誉な話はない、と言ってごねだした。確かに、チャンスがあるとしたら彼だけなんだ。だが、彼は決してやっていない、と言っている」 「信じる根拠は?」 「だって何の意味がある?彼自身金持ちだし、自分の星を自分で盗って何か得になるのか?」 「つまり、機会はあるが動機はな…

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汝、星を盗むなかれ(第六回)作・風間銀灰

仕方がない。私は溜息をついていくつかの質問を始めた。 「防犯カメラの映像は?それに、警備会社とも契約していて、侵入者が居れば、警報が鳴るだろう?」 「防犯カメラには、何も異状は映っていなかった。警報も鳴っていない」 「それでは話にならないじゃないか」 「ただ、防犯カメラは、テープ節約のために、二十四時間異状事態がなければ、オールリセットになって繰り返し使われる」 「ヘンなところをケ…

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汝、星を盗むなかれ(第七回)作・風間銀灰

やれやれ。これでは、結局留学生に戻ってしまうではないか。私は番茶をすすって、溜息をついた。しかも彼には動機がない。と、なると…。八方塞がりだ。 「駄目か…」 学長はがっくりと肩を落とした。 「まあおまえに期待したのが間違いだったがな」 こう言われると、温厚な私でもさすがに腹が立つ。もう一度がぶりと番茶を飲むと、私は少々ムキになって考え出した。 そうだ。日中は、学生の出入…

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汝、星を盗むなかれ(第八回)作・風間銀灰

大講堂に着くと、出入口を警備員が固めていた。幸い今日はここで授業はないが、早期解決しないと、瞬く間に話は広まるだろう。 開いた扉からツリーを見たが、中に入るのはやめておいた。もし警察の調べが入ったときに、私の足跡で話がややこしくなることは避けたい。 確かにてっぺんの星がなくなっている。第一発見者の警備員が、落ちていた紙の星を見せてくれた。 それば、立体の星型に金色の折り紙を…

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汝、星を盗むなかれ(第九回)作・風間銀灰

防犯センターで映像を見てみると、明け方四時頃に偽物の星は落ちていたことが判明した。特に何かがあって落ちたわけではないらしい。と、いうことは、このテープが回るより以前に、既にすり替えられていたことになる。 ツリーが飾られてから三日、夜以外は絶えず人の出入りがあった。その全員に機会はなくはないが、同時に人目につきやすいということか。これは前にも考えた。 だが一歩考えを進めると、という…

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汝、星を盗むなかれ(第十回)作・風間銀灰

イヤな予感がして振り返ると、案の定鳴戸と大海原と、そして楠が立っていた。 鳴戸と大海原は、理工学部のクセに、わざわざ文学部の「クラシックミステリ史」を取っているミステリマニアである。体型は凸凹コンビだが、二人ともたいそう電気街が似合う男だ。 楠は国文科の女子学生で、いわゆる“不思議系少女”である。大概の不思議娘は、不思議系を演じているものだが、この娘の恐ろしいところは、それが天然…

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