田植えのときに人が死ぬ(最終回)

超越の言葉に、全員がものすごく驚いた。そして、中でも一番驚いたのは…私だった。 「で、でも、どーして…」 「弥生初期の田はね」超越は説明を始めた。「湿地帯に直接種籾をまく、いわゆる直播きなんですよ。水路で水を流すわけじゃないし、水量もたいしたことないから、足跡残っても不思議じゃないんです。収穫期だって、乾いてなかったでしょうし。」 「で、でも、真ん中辺りで足跡なくなって…」 「板でも…

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田植えのときに人が死ぬ(第六回)

「二千年もよくぞ無事に残った、すごいもんだなあ。…以上。」 この私の言葉に、全員があからさまに不満そうな顔をしたが、知らんぷりをすることにした。 「そういう話は、考古学の教授にでも振るのがスジだろう。私は知らんっ。」 「え~、そんな~。」 そこへ、教授ではないが、史学科で考古学専攻の超越(こしごえ)が通りかかった。 「あれ、皆さまおそろいでどうしました?」 「超越、いーと…

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田植えのときに人が死ぬ(第五回)

楠は、メイド喫茶でアルバイトをしている。そのせいか、自分のケーキの乗ったトレイも、妙に芝居がかった調子で運んできて…このテーブルに加わった。どうしてこんなのばかり集まってしまうのだ。 話を聞いて、彼女は、おっとり口調で恐ろしいことを言った。 「そういえば、授業で風土記を読んだときに聞いたことありますう。田植えの時期、若い娘が田で死んでしまう、という伝説が多いのは、かつて古代の日本では…

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田植えのときにひとが死ぬ(第四回)

「なるほど、それなら一人分の足跡しかない説明がつくっ。さすが大海原っ」 鳴戸に褒められ、大いにテレる大海原に、田沢の容赦ないダメ出しが飛んだ。 「わざわざ田んぼに埋めるなんて、手間じゃなくて?山にでも捨てた方がよっぽど合理的ですことよ」 大海原が反論するかと思っていたら、「~ことよ」という語尾が気に入ったらしくでれでれしていた。情けない。 「じゃ、こんなのはどうスか?田植え前…

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田植えのときに人が死ぬ(第三回)

「なんだと?」私は面食らった。これのどこが事件だというのだ。 「ほら、この足跡よーく見てくださいよ。」 鳴戸のずんぐりした指が写真を指さした。 「足跡、何故残ってるんスか?刈り入れ時のなら田の土はもう堅くなってるはずだし、田植え前のだとしたら水が入って、足跡はなくなるはずですよ。」 「それでですね」大海原が引き継いだ。「何故足跡が残ったのか、その原因を推理してみようってコトになっ…

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田植えのときに人が死ぬ(第二回)

三人は、必死の祈りも虚しく、当然のように私のテーブルに落ち着いた。 「先生、『隅の老人』気取りですか?ここはABCショップじゃなくってよ。」 田沢は、なかなか可愛い顔をしているのにいつも言葉にトゲがあり、かつやや古風な喋り方をする。いわゆるアキバ系の鳴戸と大海原につきまとわれるのはこのせいかもしれない。 「なんだ君たちは。哀れな師が心の平安を取り戻す時間もくれないのか。」牛乳とチー…

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田植えのときに人が死ぬ(第一回)作・風間銀灰

毎度のことだが、今日も授業で学生にこてんぱんにやられた。本日の授業のテーマは、「ドルリー・レーンとエルキュール・ポワロの共通点」だったが、案の定学生の方が圧倒的に詳しかったのだ。  申し送れたが、私は某大学で名ばかりの助教授をしている中年男性である。英米文学が専門だが、シャレのつもりで"クラシックミステリ史"を開講したのが大失敗だった。それ以来、前述のような学生におちょくられる日々が続き、…

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