冬桜 四の一(続き) 作・風間銀灰

男はうろたえた。
「先生は、ご自分が助かることを信じていらっしゃらない。どうして、私が助かると信じたように信じようとなさらないのですかっ」
ここで少年は、はっと我に返り、目を伏せた。
「生意気を申しました。許してください。でも…万が一にでも先生にもしものことがあったら、自分は…」
彼の顔が、ほぼ真下を向いて、切れ切れの声が洩れた。
「…先生を殺したのは自分だと…そう思いながら生きて…」
男は驚いて、うつむいて涙を堪えている少年を見た。ではこの子は、これまでそうして自分を責めていたのか。
「何を言う。他でもない、私自身の不養生が病の原因。君のせいなどではない。それに、肺病は遺伝病だと言われているではないか」
少年は、涙で光る目を向け、顔を上げた。
「臥している間、自分は、胸の病についてたくさん学びました。巷間で伝えられているような、業病などではありません。確たる証はありませんが、自分は伝染性の病だと考えています。…自分は将来医師になって、そのことを確かめ、治す手段を見つけたいと思っています」
男は、少年の力強い瞳を見た。この子には未来が、将来への夢があるのだ。先への希望が。
「先生が自分にくれた夢です。学ぶこと、人を知ること、蘭学の楽しさ、書の面白さ。私に教えてくれたことへのご恩返しをさせてください。…どうか、私が医師になるまで、生きてください」
男は、それには答えなかった。約束する自信はなかった。それで、ひとこと、呟いた。
「ありがとう」
それから立ち上がって、言った。
「冷えてきた。暗くなる前に帰りなさい。まだ無理をしてはいけない」
~続く~

この記事へのコメント


この記事へのトラックバック