冬桜 三の三・四 作・風間銀灰

それからしばらくして、ねえやは里に帰った。彼女の母親が死んで、幼い弟妹の面倒をみなければならないというのが、その理由だった。本当のところはわからない。ただし、その後の風の便りで、彼女は嫁いで、子だくさんになったと聞いた。
達者に暮らしているらしかったので、今日風車を見るまでは思い出さなかったのだが、ふと、どうして彼女はあのとき泣いたのだろう、と男は思った。幼い自分が我儘だったからか。だが、自分がぐずることなどいくらでもあったはずだ。では何故、あの日に限って。
男は、再びゆっくり風車を廻した。そして廻るのを見ながら、もしかしてあの日ねえやは、彼女の母の死を知ったのではないか、と思った。そうでなければ、危篤の報せを受けていたのではないか。
母を喪うという不安と、奉公先での心細さと、聞き分けのない幼子とで、彼女の張りつめていた気持ちに限界が来たのかもしれない。あの日、いい子に泣き止んだのは彼女の方で、風車をもらうべきだったのも、彼女ではなかったか。
今あのときのねえやに会えたら。男は、廻る風車を見ながら思った。俺の方こそ、この風車を渡してやるのに。
男は、もう一度ねえやのあの泣き顔を、火のつくような泣き声を思った。そして、ふと考えた。俺は死んでしまっても、あのように泣いてもらえることはないのではないか。子もなく、何も為さず、惜しまれることも、愛されることもしていない。

ぞっとする考えを追い払うため、男は障子を開けた。冷たい微風が入ってくる。それで風車はくるくる廻ったが、彼は、もうそれを見ようとはしなかった。
~続く~

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