冬桜 三の一 作・風間銀灰

医師のもとを訪れてから二、三日経って、友人が様子を見に来た。男を江戸に呼び寄せた、件の者である。彼は男の性格をよく知っていたので、早くよくなれとも、生活を変えろとも言わなかった。ただ、こう言った。
「とりあえず死ぬな。故郷のおまえの母上や兄上に申し訳が立たない」
男は黙っていた。それでも、友人のこんなぶっきらぼうな言葉の裏に、思いやりと、そしてその思いやりを表に出さない気遣いを感じ取っていた。
友人は、柑子ひとやまと、書を二冊と、そして風車を一本置いて、帰っていった。
「酉の市がやっていたのだ。…おまえなら、熊手なんかより、これだろう」という言葉を残して。
俺はあやされている子供のようなものだな、と、男は風車をかざしながら苦笑した。そういえば、それこそ幼い頃は、これを持って走り回ることが大好きだった。
くるくると廻るのが不思議で、息が切れるまで走ったり、頬をふくらませて吹いたり、風を求めていつまでも高く掲げていたりしたものだ。ただ廻るだけの、何がそんなに面白かったのだろう。
しばらく眺めてから、彼はなんとなしに息を吹きかけてみた。風車は、ゆっくりと廻り出した。それを見ていてふと、幼いときのある日を思い出した。
~続く~

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