オルレアンから来た少女 二章-5 作・風間銀灰


そもそも香音さんが彼と知り合ったきっかけも、彼が店の常連だったというところからだそうだ。残念ながら、これ以上聞けることはなさそうだった。
ひと通りの話が途切れると、楠が急に立ち上がって言った。
「じゃ、お話済んだトコで、ケーキタイムにしましょ~。香音ちゃん、美音ちゃん、ここのケーキ、けっこうおいしーから、いっぱい食べてって~。もちろん先生のおごりですぅ♪」
それを聞いて、今日初めて香音さんは笑った。妹の美音さんも嬉しそうに立ち上がった。
「やったあ、ごちそうさまですっ。ほらほら、お姉ちゃん、ケーキ見に行こうよっ」
「美音ったら…。失礼ばっかりで、すみません」
失礼なのはどちらかと言えば楠たち学生の方である。全員我も我もと立ち上がり、ケーキコーナーへ遠慮なく向かっていったのだ。おまえら、自分の分は自分で払えっ。呼んでないのだからそもそもっ。
客人の前でそのようなセリフを吐けるわけもなく、やがて我々はたくさんのケーキと、私のヤセこけた財布と共にテーブルに戻ってきた。給料日が遠いのだ。勘弁してほしい、まったく。
席に着こうとして、香音さんの椅子の下に、ハンカチが落ちているのを見つけた。タオル地の、濃い目のピンクだった。
「ハンカチ落とされましたよ」
と、私が香音さんにそれを渡すと、横で美音さんが笑った。
「あ、これあたしのです。すみません」
そう言って彼女はハンカチを取ると、また笑って言葉を続けた。
「お姉ちゃん、ピンクは絶対身に着けないんです。モノトーンばっかで。たまには色のも着ればいーのに」
「お店でもゴス系なんですぅ」
楠が口を挟む。
「ゴスロリ系メイドさん!」
鳴戸と大海原が同時に叫び、そのまま彼らは香音さんの出勤日確認モードに入っていった。今度は彼らがストーカーにならなければいいのだが。
続く

※この作品はフィクションです。実在の人物・団体に一切関係ありません。

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