オルレアンから来た少女 二章-2 作・風間銀灰


とりあえず今週末、当初の予定通り香音さんに会って話を聞くことになった。被害者のことをよく知るためだ。
「場所は~、うちの店でいいですかあ?」
「断るっ」
楠の提案を私は即座に却下した。何が悲しくていい歳のおっさんが、メイド喫茶に行ったうえそこでストーカーやら殺人やらの話を聞かされなくてはならないのか。それだけは絶対に避けたい。
「…せめてうちの学食にしてくれ」
私がそう言うと、大海原がすかさず突っ込みを入れた。
「あ~、センセー、学食だと安くあがるって思ったんじゃないですか~」
「うるさい。安月給なんだ、悪いか。…そもそもなんで、相談を受ける側の私がお茶代を出す話にいつの間になっている」
「年長者への尊敬っスよ~」
そう言う鳴戸、年長者への尊敬が全く感じられない。
「そーいえば、話を聞いた超越(こしごえ)クンも、ぜひ力になりたいって言ってたっスよ~」
油断していたら、ここでまた一人厄介な人物が加わってしまった。超越というのは、史学科の学生で、やはりクラシックミステリ史を受けている。しかし彼は、ミステリマニアというより武道系マニアで、空手の腕前は相当なものらしい。だから一見体育会系まとも人間かと思いきや…この男も、やはりどこか妙なのである。
類は友を呼ぶとはよく言ったものだ。…ではそんな連中に囲まれている私は、いったい何なのか、あまり深く考えたくはないが。
「じゃ、先生、よろしくですぅ」
連中が去って、私はやれやれとようやく新聞を広げた。今日は朝から何故か忙しくて、今までゆっくり読む暇がなかったのだ。
静寂さをやっと取り戻した我が名ばかりの研究室で、私はコーヒーをすすりながら活字を追っていった。日差しは季節のわりに柔らかく、ぽかぽかと心地よい。訳あってこの部屋にずっと置いてある、パンダパペットのぬいぐるみも、どことなく眠そうだ。
だが、すっかり平和な気分になっていた私を、激しい衝撃が襲った。社会欄に大きく取り上げられていた記事が、その原因だった。
『現場にメッセージカード、連続殺人か』
見出しにはそう書かれており、急いで内容を追うと、そこには三十代の女性が何者かに刺殺されたこと、現場にはあるメッセージが書かれたカードが残されていたこと等が書かれていた。
そのカードにはこう記されていたそうだ─コノ女ハ、隣人ノモノヲ盗ンダ。─
警察はまだ断定していないが、このカードによって、先日の駅での事件との関連が疑われているという文で記事は終わっていた。
私は思わず身震いした。もしも犯人が同一人物なら、通常の殺人犯より更に危険そうな気配がする。そんな奴を、果たして非力な中年男が止めることなど、できるのであろうか。
しかし、やるしかないのである。もう関わってしまったのだから。もはややれやれの安売りどころか、叩き売りである。
続く

※この作品はフィクションです。実在の人物、場所に一切関係ありません。

この記事へのコメント