オルレアンから来た少女 二章-1 作・風間銀灰

二章 メッセージ・カード


恐れるな。そなたらが始末する獣たちは、死ぬことで神の意志を伝える、崇高な犠牲へと昇華するのだ。

私が遭遇した駅での事件は、思いもかけぬ展開となった。通常の鉄道事故なら、新聞の社会欄に小さな記事が載る程度であったろう。だが、被害者のポケットに入っていた一枚の紙切れが、全ての事情を変えてしまった。そこには、このように書かれていたそうだ。
コノ者ハ、聖女ヲ汚ソウトシタ。
この紙切れがあったことで、通り魔的事件だったものが、更に禍々しい様相を増した。
よって、新聞社各社は、この事件を大きく取り上げた。私のところにもどうやって調べたのか何人か記者が来たが、大したことは言えないと断った。…どうせ断っても、勝手な記事になるのだろうが。
そして、残念なことにとでも言おうか、結論から言えば、被害者はやはり、香音さんのストーカーだった。田中宏一、二十五歳、職業フリーター。
私や楠が、香音さんのことを警察に言うべきか悩む前に、警察は彼女のことを調べ、聴取していた。しかし幸いにも、彼女には強固ではないがアリバイがあった。同居している妹さんが、確かに家に居たと証言したのだ。
「香音ちゃん、関係なさそうで、とりあえずよかったですぅ」
楠は心底ほっとした顔で言った。
「でもかわいそうに、しばらくお店休みますって。ショックが大きすぎたんですよ~。…てゆーか、ちょっとヒドクないですか?香音ちゃんが疑われるなんて」
彼女の表情が、今度は頬を膨らませた形になった。どうやら怒っているつもりらしい。
「まあまあ、楠さん」
なだめるように鳴戸が言った。
「悪いコトばっかじゃないスよ…これで香音さん、少なくともストーカー被害の心配はもうないってコトっスよ」
確かにそれはそうだが、人が死んだことで安心するというのも、かなり寝覚めが悪かろう。
「それでですね」
楠が、珍しくきっとした顔で言った。
「ストーカーの奴を落っことした真犯人を見つけて~、香音ちゃんの無実を証明しようって思うんですぅ。もちろん協力してくれますよね?」
「なんだと?それは警察の仕事だろう、素人に何ができるっ」
「だって先生は、もう立派なプロの素人探偵ですぅ。目撃者でもあるし、やらないでどーすんですか」
プロの素人探偵…この女子学生、国文科のくせに、日本語が無茶苦茶だ。
断る、ダメですぅという応酬をムダに繰り返した挙句、結局何かはしなくてはならない空気となってしまった。…いつもつくづく思うのだが、いったいどうしてこういうことになってしまうのだろう。
続く

※この作品は完全なるフィクションです。実在の人物・団体に一切関係ありません。

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