オルレアンから来た少女 一章-3


「で、そのストーカーってゆーのがぁ…」
と楠が話し始めたところで、またもう一人招かざる奴がやってきた。
「ストーカー?鳴戸のコト?」
「大海原クン、人のこと言えるっスか?」
新たに現れたこの大海原という男、鳴戸と同じ理工学部の学生で、ひょろひょろであるという点を除けば、鳴戸の全くの同類と言ってよい。実際この二人、よくセットで登場する。つまりこいつも、私の頭痛の種の一因である。
「いや、楠さんのバイト先の話っスよ。さ、続きをどーぞ」
相談に乗らされてるのは私の筈だが、いつの間にか鳴戸が仕切っている。
「は~い。そのバイト仲間、香音(かのん)ちゃん、ってゆーんですけど、そもそもの始まりはそのストーカーが店に押しかけてきたことなんですぅ」
「店のお客さんだったわけ?」と、大海原。
「違うんですぅ。だからややこしいんです~。そのストーカー、香音ちゃんの元カレなんですよ。でも別れてからもつきまとって、お店にまで来ちゃったってワケなんです」
「で、彼はその香音さんとやらを脅迫したりしたのか?」
「いえ、それが…」と楠が顔を曇らせた。
「だから困っちゃってるんですよ~。そいつ、フツーにお客としてやってきて、香音ちゃんを指名するだけなんですぅ。しかも別に何もヘンなことしないし。そしたらフツーにお客さんとして扱わなきゃなんないじゃないですか。でもだから、香音ちゃんよけーに参っちゃってるんですよぉ」
私は考え込んだ。警察等に相談して接近禁止命令を出してもらうにも、明らかな違法行為や危険を予感させる根拠がなくては、司法もなかなか介入できないだろう。
「楠、他には何かないのか?」私は尋ねた。「変なメールとか電話とか?」
「それが…」と楠は顔を曇らせた。「電話は必ず毎日一回だけ留守電に入ってるだけですし~、手紙も『熱烈なラブレターです』と言い張られたらどーしようもないものを度々送ってくるだけだそーですしぃ…」
つまり、法に触れないラインを考えているということだろうか。
「香音さんは、警察には届けたんスか?」
鳴戸の問いに、楠はふるふると首を振った。
「だって元カレですし、イラっとくるけどそこまでヒドイことされてるワケじゃないし、だから自分でどーにかするって言ってて~、だからわたし、どーにかしてあげたくて」
何?待て、と、いうことは…。
「つまり、その香音さんに頼まれてもいないのに、勝手に私に相談を持ち込んだという訳か?」
「だってほっとけませんよっ!何もなければいーけど、もし、もしもですよ、何かあったらどーすんですかあっ」
それは確かにそうだが。私は溜息をついた。
「それで、私にどうしろと?」
「とりあえず、近いうちに香音ちゃんに会って話を聞いてほしいですぅ」
結局こういう事になってしまうのだ。私は再び溜息をつき、冷めたコーヒーをすすった。鳴戸と大海原が、香音ちゃんて可愛い?と本題に関係ない質問をしている。おそらく、可愛かったら私に付いてくるつもりなのだろう。もう「やれやれ」の大安売りである。
続く

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